K-POPと「母」の喪失

「少女時代について何も知りませんよ」
●でも好きなんでしょ。
「うん」
●「ここを一回整理しとかないと日本の音楽は次に進めない」とか言ってたじゃん。
「言ったかねえ……」
●どこが好きなんですか?
「まあどこが好きかって話はさあ……。『どこが好きか問題』って本当難しいよ。俺がフィッシュマンズが何故好きかって言っても、言語のレベルでは『じゃあ何でbonobosじゃ駄目なの?』ってなる奴とか……」
●そんなアホ放っときゃいいじゃん。
「つってもさあ……」
●少女時代の話ですよ。
K-POPじゃなくて?」
K-POPはどうですか?
「全然知らない……。テレビでしか見ないからさー、KARAと少女時代しか知らないですよ。4 Minutesはアニメのすげーダサい曲があって、別にアニメがどうこうじゃないけど、他には良い曲あるよ絶対」
●KARAの露出が凄いね。少女時代が「GEE」出してからの間にアルバムもDVDもドラマもやってるよ、日本で。少女時代が韓国では反日の姿勢取ってる、とかいうのも関係あるのかなとか思ったりするんだけど。
「日本だとKARAの方が人気ない? 実感ベースでもそうだし、劇団ひとりケンコバも土田もテレビでKARAの話してるよ。プロモーションの問題と、反日はあんま解んないけど……。でもKARAの曲はJ-POPだよ。一番新しい、TBCのCMの曲(“ジェットコースターラブ”)なんか、完全に日本のマーケットに収まる形態になってる。テレビでしか聴いてなくて申し訳ないけど」
●聴きましょうよ。
(“ジェットコースターラブ”を聴く)
「ほーら。しかも90s」
YouTubeでしか聴いてなくて申し訳ないけど。
「最近ビブラストーン聴いてて思ったんだけど、日本におけるファンクの受容ってタワー・オブ・パワー的というか、跳ねる感じがあんまりない。米米クラブじゃがたらも結構そうなんだよ。近田春夫オルタナティヴの方面からヒップホップに接近するとそうなって、スチャダラパーのラップの平板さをそれと併せて考えれば、その裏面として、実は最初に日本でファンクをやったのはZEEBRAなんじゃないか、って話になってくる」
●なってくる、て。
「“ジェットコースターラブ”のバックのホーンも、これは米米CLUBだよ。まあEW&Fでもいいんだけど、要するに歌メロに奉仕する形式で、JB的なコードが停滞するファンクってものとは根本的に別物だ。リズムがイニシアチヴを握って腰にくるようなものではないんだな。そういう意味で極めて日本的、日本仕様に作られている」
●それ以前の“ミスター”とか“JUMPIN’”は違ったと思いますけどね。
「だからここに来てプロモーションが変わったんだろう。プロモーションってのは何も宣伝の打ち方だけのことじゃない。外来種として、ではなくJ-POPの内側に生態系を見出そうとしている……。でもそれはK-POP全体がそうあろうとしているのかもしれないけど、ひょっとしたら。恵比寿ガーデンシネマの跡地はK-POP専用の劇場になるし、この間なんてほぼジャニーズJr.と寸分も狂わないような10代の男の子のグループがデビューしてた。そういう『エイリアン性』を消臭しようとしてるような流れを何となく感じる」
●で、少女時代はそういうのと比べてどうなのよ。
「いきなり正反対のこと言うけど、少女時代だけは何ともぶれないわけよ。今回の“MR. TAXI”は日本オリジナルの曲なんだけど、“ジェットコースターラブ”とは何から何まで違うわけね。あくまでJ-POPの外側に位置していると言うか。ソングライティングが歌メロのためになっていない。トラックが自律してリズムが立ってるから、菊地成孔的に言えば『フォーク』の入る余地が無いんだよね。大体、Aメロ→Bメロ→サビ、って構造自体が日本の歌謡曲/J-POPに特有なものでしょう」
●結局そこだと思うんですよ。要するに参照点がUSってことでしょ? あんまりグローバリゼーションの話まで広げるのもどうかと思うんだけど、韓国国内の市場がすごく小さいから、必然的に外を目指さないといけない。以前までは(或いは今でも)「日本のJ-POPがアジアで人気だ」って話が結構あったけど、実際アジアからやってくるポップスにまるでJ-POPの影響が無い。
「少女時代も、ちょっと遡ったら07年ぐらいまではモロにJ-POPなんですよ。それがある時期に突然変態した。アジアにおける日本のヘゲモニーが何たら、みたいな話もあるにはあると思うけど、でも日本には安室奈美恵がいた。まあ倖田來未でもいいんだけど。エイベックス的な、90年代小室哲哉によって「レイヴ(笑)」とか「ジャングル(笑)」とか「R&B(笑)」とか言われてたものが一度、宇多田ヒカルの登場によって破壊され尽くしてしまった後で、小室から離れ、チャートに距離を置きながらブラック・ミュージックともう一度向き合い続けた安室が、いつの間にかマジのファンクを身につけて我々の目の前に現れたのがちょうどこの頃だ。04年の“WANT ME, WANT ME”は、テンション高過ぎのティンバみたいな曲が絶妙に古い気がして微妙だったんだが(デスチャの“Lose My Breath”もこの年)、『PLAY』(07)においては後のUS R&Bの主流たるエレクトロまで実は先んじていた。日本の、少なくともブラック・ミュージックにおいてこういった音楽はかつて無かった。要するに『フォーク』が無いんだ」
●かつて日本のブラック・ミュージックには、久保田利伸鈴木雅之がいた。前者はフォークを排除し、後者はフォークを胚胎した。でも久保田利伸も、実際日本で売れた曲には歌メロ優先の形式があった。
「うん。まあ“LA LA LA LOVE SONG”は微妙だけど、あれはドラマだから」
●要するに少女時代と安室奈美恵の変化に同時代性があったってことですね。
「そう。で、フォークを排除した安室に対して、フォークを胚胎したEXILEがいる。ただまあ、どう考えてもやっぱり安室奈美恵という存在は日本において特殊で、K-POPというものとの比較が成り立つかは正直よく解らないんだけど」
●……。というか、日本のその「フォーク」ってやつが特殊なんじゃないの?
「まあそれは成ちゃんの説だからね。すごい金言だと思うけど」
●日本のシーンがガラパゴス化してるとかさ、そういう結論だったらあまりにつまんねーよ。今すごい心配になってきたんだけど……。
「いや、ガラパゴス化してるかしてないかなんて話だったら、してるに決まってるじゃん! というか少女時代の話でしょ? 俺は“GEE”について喋りたくて。あれは要するにジャネット・ジャクソン“Doesn't Really Matter”のパクリと言うか翻案なわけだけど、“Doesn't Really Matter”は確か『bmr』で90年代のR&Bのベスト・トラックに選ばれていた(次点がアリーヤ“Try Again”とTLC“No Scrubs”。発表年から考えて、91〜00年のチャートかもしれない)。まあそんなこともどうでもいいぐらいの名曲なわけだけど、名曲からはパクリがじゃんじゃん作られじゃんじゃん売れ、“Got To Be Real”というそれはそれは無数にパクられた曲はその内の一つにドリカム“決戦は金曜日”をも含むのだが、まあそれぐらいパクられるポテンシャルがあると」
●“Got To Be Real”がパクられまくったのは黄金のコード進行じゃないの?
「……まあそれはいい。問題は“Doesn't Really Matter”が仮に今後パクられまくるとして、パクッた曲が200曲できるとして、“GEE”はその中で1位じゃないかと思うんだ。それぐらいいい曲だ。そしてこれが最大の問題なんだが、“GEE”は含有しているものが100% US R&Bというわけではない」
●「フォーク」ってこと?
「いや違う。これは本当、すごい単純なイメージの問題で申し訳ないんだが、あのー、昔、渡辺満里奈が台湾とか言ってた時あるでしょ? あとウォン・カーウァイの『恋する惑星』とか……」
●…………。
「要するにああいう感じ、日本における『アジア』の受容がエキゾチズム一辺倒だったような時代がかつてあって、何故かそれが“GEE”の中には見られる」
●……本当にイメージのだけの話だよそれ……。
「いやしかし! 同様にかつて、日本にも“Doesn't Really Matter”を翻案した曲があった。島谷ひとみの“PAPILLON”がそれだ! 日本は“PAPILLON”において安直なオリエンタリズムを表象したが、その10年後、紛うことなき『本物』たる少女時代が東アジアの他国から現れた……」
●つーかそれはそもそも“Doesn't really Matter”がそういう曲なんでしょ?
「…………」
●パクるとかパクられるとかさっきから言ってるけど、結局元の曲がそうなんじゃん。「フォーク」もクソもないっしょそれは。
「…………だからまあ、US的なものへの羞恥、でしょ? 結局日本はいまだにここから抜け出せていない……えー詳しくは江藤淳『成熟と喪失』(講談社文芸文庫)をお読みください!!」
●どんだけの名著にどんな逃げ方……。小林秀雄江藤淳に逃げるやり方、次回から無しな。それで終わる批評って大体つまんねーし。
「『母』の喪失って話だしね……。だからまあ、喪失してないんだよ、日本はまだ」
●もういいよ……。ところで何で急にこんな対談形式になってんの?
「いや、書くの楽かなって思ったらさ、全然楽じゃない!! 普通に書いた方がいいよ!!! 『文芸誌をナナメに読むブログ』さんの真似するんじゃなかった!!!」
●力量の差が出るな。
「本当に……。次回は『スクリーマデリカ』に本気出すよ!!!」